【学芸員監修】わかりやすい展示解説の書き方|専門用語を「伝わる言葉」に変える5つの技術

展示室で一生懸命に書いた解説パネルを、来館者が一瞬だけ見て通り過ぎてしまう。学芸員の皆様なら、そんな光景を目にして寂しい思いをしたことが一度はあるのではないでしょうか。専門的な内容を正確に伝えようとするほど文章が硬くなり、読みにくくなってしまうのは、多くの方が直面する悩みですよね。
実は、展示解説 わかりやすいものにするためには、情報の正確さを保ちつつ、読者の心に届く翻訳の視点が欠かせません。言葉の選び方や構成を少し工夫するだけで、来館者の滞在時間は驚くほど変わります。専門用語を噛み砕き、作品の背景にある物語を共有することで、展示体験はより豊かなものへと進化するはずです。
この記事では、ストーリー設計やAIを活用した改善策など、展示解説をブラッシュアップする5つの技術をご紹介します。完読率を3倍に高めたF博物館の事例も交えて、実践的なノウハウをまとめました。来館者の知りたいという気持ちに寄り添う、素敵な解説文を一緒に作ってみませんか?

展示解説が「伝わらない」3つの理由
展示室で一生懸命に書いた解説パネルを、来館者が一瞬だけ見て通り過ぎてしまう。そんな光景を目にして、寂しい思いをしたことはありませんか?正確な情報を届けたいという情熱があるからこそ、つい文章が長くなったり、専門用語が増えたりしてしまうのは、多くの学芸員が抱える共通の悩みです。
学芸員を悩ませる3つの大きな壁
展示解説を作成する際、私たちは無意識のうちに「正解」を詰め込もうとしてしまいます。しかし、それが原因で以下のような課題が生まれていないでしょうか。
- 専門用語が多すぎて、一般の来館者にはハードルが高く感じられる
- 文体が論文のように硬く、最後まで読むのに根気が必要になる
- 情報を詰め込みすぎて、結局「何を一番伝えたいのか」がぼやけてしまう
これらの悩みは、決してあなたの知識不足が原因ではありません。むしろ、専門家として誠実に向き合おうとするからこそ生じる「知識の呪縛」とも言える現象なんです。
来館者の視点から見た「読まれない解説」
多くの来館者調査によると、展示パネルの前に立ち止まる時間は平均して数秒から十数秒程度と言われています。最初の数行で「難しそう」と判断されると、視線はすぐに次の作品へと移ってしまいます。
特に、前提知識がない方にとって、未知の用語が並ぶ文章は「自分に向けられた言葉ではない」と感じさせてしまうのです。せっかくの貴重な資料も、言葉の壁があるだけでその魅力が半分も伝わらないのは、本当にもったいないことですよね。
この記事で提案する解決のステップ
この記事では、展示解説 わかりやすいものへと劇的に変えるための具体的な方法を、5つの技術としてご紹介します。主な内容は以下の通りです。
- 完読率を向上させるストーリー設計と情報の構造化
- 専門用語を日常の言葉に翻訳する5つの表現技法
- AIを活用した客観的なブラッシュアップとF博物館の実践例
本記事では、基礎となる設計からAIによる添削、そして実際の成功事例までを順を追って解説していきます。まずは、展示全体の流れを整理するために展示企画の7つのステップを再確認しながら、解説文の役割を見つめ直してみましょう。それでは、来館者の心に響く言葉の紡ぎ方を、一緒に学んでいきましょう。
技術1-2:ストーリー設計と構造化
「せっかく書いたのに、読んでもらえない……」そんな悩みを解消するために、まずは文章を書く前の「設計図」から見直してみませんか?展示解説をわかりやすいものにするためには、単なる情報の羅列ではなく、来館者が自然に引き込まれる「流れ」を作ることが大切です。ここでは、読者の興味を最後までつなぎとめる2つの基本技術を解説します。
1. 心を動かす3つのストーリーパターン
解説文全体を一つの物語として設計することで、来館者は迷子にならずに作品の世界へ没入できます。特におすすめなのが、以下の3つの構成パターンです。展示の性質に合わせて使い分けてみてくださいね。
- 問いと答え型: 「なぜこの形をしているのでしょう?」という問いから始め、その理由を解き明かす形式です。来館者の好奇心を刺激するのに最も効果的です。
- 時系列・変化型: 「かつては〜だったが、現在は〜」のように、時間の経過とともに何が変わったのかを追う形式です。歴史的な背景を伝えるのに適しています。
- 起承転結型: 発見のきっかけから、調査で判明した意外な事実、そして現在の評価へとつなげる、ドラマチックな展開です。
2. 視線を誘導する情報の階層化
展示室では、来館者は常に歩きながら情報を探しています。パッと見て「何が書いてあるか」がわかるよう、情報を階層化して整理しましょう。大きな見出しで結論を伝え、リード文で概要を、本文で詳細を、という順序で構成するのが鉄則です。
さらに、マニアックな専門知識は「補足コラム」として別枠に分けるのも素敵な工夫です。こうすることで、さらっと見たい方とじっくり読みたい方の両方に寄り添うことができます。展示解説をわかりやすい構成に整えることで、情報の渋滞を防ぎ、快適な鑑賞体験を提供できるようになりますよ。
実践!解説文のビフォー・アフター
実際に、ある土器の解説を例に比較してみましょう。
【Before】(事実の羅列) 本資料は縄文時代中期の深鉢形土器である。口縁部に4つの突起を持ち、全体に力強い隆起線文が施されている。当時の祭祀用として使われたと考えられ、出土状況からその重要性が示唆される。
【After】(ストーリー設計と階層化) 「祈りの形:4つの突起が語るもの」 なぜ、この土器には大きな飾りがついているのでしょうか?実は、これらは単なるデザインではなく、当時の人々が神様へ祈りを捧げるための特別な目印だったと考えられています。力強い模様の一つひとつに、自然への畏敬の念が込められているのです。
ストーリー設計の準備ステップ
- ターゲット層(親子連れ、専門家など)を再確認する
- その作品で「一番伝えたい驚き」を1つに絞る
- 導入の1文目が「問いかけ」になっているかチェックする
- 見出しだけで内容の6割が伝わるか確認する
こうした「伝える技術」を磨くことは、学芸員の仕事の未来を考える上でも、今後ますます重要になっていくでしょう。解説文の設計には、1パネルあたり30分〜1時間程度の所要時間を見込んでおくと、余裕を持ってブラッシュアップに取り組めますよ。
情報の盛り込みすぎに注意!
技術3-4:専門用語の言い換えと表現技法

専門用語をどこまで崩すべきか、頭を悩ませることはありませんか?せっかくの重要な研究成果も、言葉の壁があるだけで来館者の足は止まってしまいます。展示解説 わかりやすいものにするためには、私たちの専門知識を、来館者の日常にある言葉へと「翻訳」する作業が欠かせません。
専門用語を「翻訳」する5つのステップ
まずは、無意識に使っている専門用語を「伝わる言葉」に置き換えるための、具体的な5ステップを実践してみましょう。いきなり文章を書き直すのではなく、言葉を一つずつ丁寧に解きほぐしていくのがコツです。
- 解説文の中から、専門家以外には馴染みの薄い「名詞」をすべて抽出する。
- その言葉が指している「本質的な役割」や「動作」を言葉にする。
- 「中学生でも日常的に使う言葉」のリストから似た意味の単語を探す。
- 「〜のようなもの」という比喩や、具体的な動作(〜すること)に言い換える。
- 前後の文脈を整え、リズムの良い一文に再構成する。
例えば「遺構の重複」という言葉は、そのままではイメージが湧きにくいものです。これを「古い建物の跡の上に、新しい建物が重なって見つかった状態」と言い換えるだけで、当時の人々の営みが重なり合う様子が目に浮かぶようになります。専門用語を「動き」のある言葉に変えることで、解説はぐっと親しみやすくなるのです。
想像力を刺激する比喩と具体例
難しい概念を説明する際、身近なものに例える「比喩」は魔法のような効果を発揮します。来館者がすでに知っている知識と結びつけることで、理解のスピードが飛躍的に高まります。以下に、展示現場で使いやすい言い換えの例を10個まとめました。
展示で使える!伝わる言い換え10選
- 遺構 → 過去の暮らしの跡
- 出土 → 地面から見つかる
- 祭祀 → お祈りやお祭り
- 攪乱 → 土が混ざってしまうこと
- 剥落 → ポロポロと剥がれる
- 編年 → 歴史の物差し(年表)
- 寄贈 → 大切な贈り物
- 文様 → 描かれた模様
- 完形 → 壊れずに残った姿
- 散布 → バラバラに散らばっている
チームで育てる「館内言い換え辞典」
こうした言い換えの技術は、個人の中に留めず、館全体で共有することが大切です。例えば、ExcelやNotionなどを使って「館内言い換え辞典」を作ってみてはいかがでしょうか。特に、受付や監視スタッフが来館者から受けた「これってどういう意味?」という質問は、辞典を充実させる最高のヒントになります。
また、パネルに書ききれない詳細な背景や、より専門的な解説を楽しみたい方には、QRコードからスマホで読める解説を用意するのも素敵な工夫です。情報の深さを多層化することで、初心者から愛好家まで、あらゆる層に満足いただける展示体験が実現します。
ニュアンスの削りすぎに注意!
展示解説 わかりやすい表現を追求することは、決して知識を軽んじることではありません。むしろ、私たちが愛する作品の魅力を、より多くの人に手渡すための「優しさ」そのものと言えるでしょう。
技術5:AIを活用した解説文の改善
「解説文を何度も書き直しているうちに、何が正解か分からなくなってしまった…」そんな経験はありませんか?展示解説 わかりやすいものにするために、近年ではAI(人工知能)を「心強い副編集長」として迎える館が増えています。客観的な視点を取り入れることで、学芸員がつい陥りがちな「専門性の迷路」から抜け出すヒントが得られますよ。
AIによる「客観的な視点」の導入
まずは、作成した原稿をChatGPTなどのAIツールに読み込ませてみましょう。単に「直して」と頼むのではなく、「この文章の難易度を5段階で評価して」「中学生が理解できない単語を5つ抽出して」と具体的に指示を出すのがコツです。
AIは私たち人間とは異なり、文脈の「忖度」をしません。そのため、専門家同士では当たり前に通じてしまう言葉の壁を、冷徹かつ正確に指摘してくれます。提示されたリライト案をそのまま使うのではなく、それをヒントに自分の言葉で書き直すことで、温かみと分かりやすさを両立できます。
パネルの文字数を減らす「情報の多層化」
展示パネルの文字数削減にもAIは役立ちます。例えば、パネルにはAIで要約した「30秒で読める核心」だけを掲載し、詳しい物語はAI音声合成を活用した音声ガイドへ誘導してみてはいかがでしょうか。パネルの文字数が減ることで、来館者の視覚的な負担を大きく軽減できます。
また、多言語対応もAI翻訳(DeepLなど)を活用すれば大幅に効率化できます。ただし、機械翻訳は文化的な背景を汲み取るのが苦手なため、最終的なチェックは専門家が行うようにしましょう。
AIを活用した解説改善ステップ
- 原稿の「難易度評価」をAIに依頼する
- 専門用語を「日常語」へ言い換える案を出してもらう
- パネル用の「100文字要約」を作成する
- AI翻訳で多言語展開のベースを作る
AI利用時の3つの約束
完読率3倍を達成したF博物館の実践
「本当に解説文を変えるだけで効果があるの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんね。ここでは、ある地方の歴史博物館(F博物館)が実際に取り組んだ、劇的な改善事例をご紹介します。現場の熱意と少しの工夫が、どれほど来館者の心に届くのかを一緒に見ていきましょう。
3ヶ月で挑んだ「伝わる展示」への改革
F博物館では、長年「展示解説が難しくて読み切れない」という来館者の声に悩まされていました。調査の結果、メインパネルの完読率はわずか15%にとどまっていたのです。そこで、今回ご紹介した5つの技術を使い、3ヶ月という期間を設けて主要展示のキャプションを全面的に見直しました。
まず取り組んだのは、専門用語を日常の言葉に置き換え、物語を感じさせるストーリー設計を導入することでした。さらに、AIを活用して「一目で要点がわかる要約」を冒頭に配置し、パネル全体の文字数を3割削減しました。情報の密度を整理することで、視覚的な「読みやすさ」を追求したのです。
驚きの成果と来館者の変化
この取り組みの結果、完読率は15%から45%へと一気に3倍まで跳ね上がりました。満足度調査でも「内容がスッと心に入ってくる」という評価が20ポイント向上し、展示風景や解説を引用したSNS投稿も2倍に増加しました。展示が単なる「情報の提示」から、来館者の「体験」へと変わった瞬間でした。
F博物館の改善プロセスと成果
- 期間:3ヶ月の集中リニューアル
- 改善:専門用語の整理とストーリー型の構造化
- 成果:完読率が15%から45%へ向上
- 副次効果:SNSでの拡散数が2倍に増加
あなたの展示室から始まる新しい対話
この記事では、展示解説 わかりやすいものにするためのストーリー設計や言い換え、AI活用などの技術をお伝えしてきました。大切なのは情報を削ることではなく、来館者の視点に立って、私たちが愛する作品の魅力を「翻訳」することです。難しい言葉を解きほぐす優しさが、展示をより輝かせます。
まずは、館内で最も「難しい」と言われているキャプションを1つだけ選び、今日学んだ技術を使って書き直してみませんか? その小さな一歩が、来館者との新しい対話を育む大きなきっかけになるはずです。一気に全てを変える必要はありません。まずは1枚のパネルから、変化を楽しんでみてくださいね。
また、パネルの文字数を減らす一方で、より深い背景を伝えたい場合には、AI音声ガイドの活用も素敵な選択肢です。音声なら作品をじっくり見つめながら、豊かな物語に浸っていただけます。もし音声ガイドの導入にご関心があれば、手軽に始められるサービスもございます。詳しくはこちらからどうぞ。
MUSE編集部
コンテンツディレクター
美術館・博物館のDX推進とマーケティング支援を専門とするライター。10年以上の業界経験を活かし、来館者体験の向上や集客戦略に関する実践的な情報を発信しています。
